分福茶釜 (6)
茂一は茶釜を運んでいた。それはとても大きく、大量の水を沸かすことも可能でしょう。茂一はひたすら、冬も近い季節に似合わぬ日焼け顔を汗で濡らしながら、運んでいた。茶釜といえば、当たり前のようにおとなしく、身動き一つもしなかった。当たり前のように。
茂林寺に着くまでに茂一は何度も休憩を取った。季節に似合わぬ日焼けをした茂一の顔は大量の汗で滲んでいた。その姿を見た人間は季節を疑ったであろう。休憩をしている時に茂一は茶釜に「大丈夫か。」と何度も聞いていた、そう言われると毎度、茶釜は静かに縦に揺れた。「そうかそうか。」と、茂一は軽く頷くと、陽射しで熱くなった茶釜を担ぎ、寺を目指し歩き続けた。
昼前に出発した茂一たちは、茂林寺に着く頃には汗も乾く夕方になっていた。寺に着くと、茂一は小僧に「和尚に会いたいのだが。」と、茶釜を地面に下ろした。「ただいま。」と、小僧は小走りに和尚を呼びに言った。小僧の姿が見えなくなると、茂一はふぅと肩から息をし、汗を拭った。
少しの時間もかからずに和尚はやって来た。どうやら、茶釜の姿を目にしたのでしょうか、顔は微笑んでいるかのようでした。
「用件はその・・・。」と、和尚は茶釜に目をやった。
「ええ。引き取っていただけますか。」
「引き取りますとも。引き取りますとも。ありがとうございます。」と、和尚は深々と礼をし、茶釜を手に取った。
茂一は手を合わせ、何かを要求するのがさぞ恥ずかしそうに、手を何度もさすった。その姿に何かを察した和尚は小僧に何やら耳打ちをすると、またもや小僧は小走りでどこかに行ってしまった。しばらくすると、小僧は何かでいっぱいになった袋を持って、小走りに戻ってくると和尚にそれを渡し、さらにそれは和尚から茂一へと渡った。
袋の中身を確認した茂一はにやりと軽く笑い、足早に寺を後にした。その帰っていく姿は寺を訪れる時とは違い、とても寒そうに帰っていった。それはそれはとても寒そうに。
↓いつもお世話になります。ついでにポチッとな。↓
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)



最近のコメント