turn back

2009年1月 7日 (水)

turn back 12

ストローをくわえ、深呼吸していると、甘美な香りが体の中にゆっくり入ってくるのを感じた。その瞬間に意識が爆発した。意識は完全に体と別行動をしていた。足は地面についているのに上半身は宇宙に飛んでいるような感覚にシローは襲われた。

同時に気持ちが良いとは別に欲求が満たされるような感覚をも受けた。そこには食欲も性欲も物欲もあらゆる欲が無に感じる。そういった感覚であった。

シローはその感覚を一通り楽しんだ後、意識と体を繋げる事に集中したが、意識が完全に一人歩きしている状態だったので、何もする事ができない。

煙玉の力に完全に身を預けた瞬間、意識と体は完全に繋がり、もとの煙玉の店に戻っていた。

シローがあまりにも短い時間に色々な体験があり、少しの間動く事ができなかった。(体と意識が分かれていた時から、微動だにしてなかったが)

「ちょっと吸い過ぎたようだな。シロー。」

可笑しそうにウパーは笑うとシローは自分自身を何か、遊ばれているように感じて少し癪だった。

「もう、大丈夫です。」

シローは俯きながら不機嫌にそういうと、ウパーは真面目な顔をして言った。

「煙玉も悪いものじゃないだろう。まぁ、それはいい。話したい事は別だからな。シロー。君がこの世界に来たのは稀な事なんだ。そう、ずっと昔からこんな事は無かった。だから、俺たち、この世界の住人からの提案があるんだ。選ぶのは君の自由だが、聞くかい。」

「ええ。お願いします。」

「いきなり、こんな事を言ってすまないね。結論はいつでも良いんだ。時間はたっぷりあるのだから。だから、聞いてくれ。提案は全部で三つある。その中で君が選ぶのはもちろん一つだ。わかるよね。一つは君は君自身のまま現世に戻るんだ。いつ死んでしまうかは言えないけど、まだ生きるにはたくさんの時間は残されているだろう。二つ目は君がこの世界お住人になることだ。これは今まで例のない扱いなのだが、全てが永遠に保障されているのだ。生きる事も、考える事、全ての事が永遠にする事ができる。それは君にとって嬉しい事か辛い事かは俺にはわからんが。三つ目は君は今までと同じように生まれ変わってしまう。そう、今の出来事はキレイさっぱり忘れてしまうだろう。一度に言ったがわかったかい。」

「ええ。」

シローは俯いたまま、顔を上げなかった。

「いつでも良いから、決心したら俺に言いにくるんだ。それまでこの世界を満喫してくれよ。」

ウパーはシローの頭をそっと撫で、去っていった。

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2009年1月 6日 (火)

turn back 11

地獄の使者のような真っ黒ないでたちは僕を少なからず恐怖させた。しかし、彼の顔はその姿とは対象的に非常に穏やかであった。

「隣に座っても?」彼は僕に微笑みかけ、誰も座っていない椅子に手をかけた。

「ええ。どうぞ。」僕は断る理由も無かったし、退屈だった事もあったが、それ以上に彼の事がもう気になってしょうがなかった。

「煙玉を無駄にするなんて、パリニルが知ったら怒るだろうよ。」

「パリニルの知り合いの方なのですか?」僕は彼に尋ねると、彼は大笑いしながら仰け反った。

「失敬失敬。何も話していなかったな。知ってるも何もあいつは俺の弟だ。似てなかったかい?」

彼は髭を生やしていたから全然気がつかなかったが、顔がパリニルと瓜二つだった。

「ウパーディサーセだ。皆はウパーと呼んでる。初めましてシロー。そしてようこそ、この世界へ。」

彼は右手を差し出し、僕はそれに応え、右手を出して

「よろしく。ウパー。」と言い、握手した。

「君の事はパリニルから聞いてるよ。俺は君に伝えなくてはいけない事があって、君に会いにきたんだ。その前に…」

これは煙玉を一度見て、そのあとに僕を見つめた。

「どうぞ。」と彼の方へと煙玉のガラス瓶を、両手を使い、テーブルの上で滑らせた。

彼は僕の手を抑えるかのようにして言った。

「いや、君が吸うだ。深呼吸をするかのようにゆっくりと。」

僕はストローをくわえ、ゆっくりと煙玉の煙を吸い込んだ。時が止まるぐらいゆっくりと。

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2007年9月26日 (水)

turn back (10)

外に出ると管弦楽器がそよ風のように心地よい音楽を奏で、僕の心はどこか幸福な感情で満たされるようであった。音楽のリズムが僕の歩調を軽やかにし、僕は鼓笛隊の前を堂々と歩く指揮者ように街の往来をさっそうと歩いた。しばらく歩くとパリニルと立ち寄った店がさまざまな色の煙が立ち上っていた。どうやら今日は忙しいらしく、青髭の店員はあわただしく動き回っていた。その光景がどうも僕には可笑しく思えたので、しばらく様子を眺めていた。すると、青髭の店員は僕に気づき、こっちにおいでと手招きをしてみせた。

「こんにちわ」僕は軽く会釈をすると、青髭の店員は同じ様に軽く会釈をした。

「こんにちわ。パリニルさんと一緒にいたお連れの方ですね。どうぞこちらでゆっくりしていって下さい。」

青髭の店員はそう言うと、僕は特に断る理由が無かったので「お願いします。」と言った。すると、青髭の店員は空いている席の方に手を伸ばし、僕を案内してくれた。

「ご注文はどうなさいますか?」と聞かれので、僕は慌てながら近くにあったメニューを広げ、『今週のオススメ 南国果実』が目に付いたので、それを注文した。

青髭の店員は「かしこまりました。」と言い、水の入った丸い瓶を取りに行った。僕はそれを見て煙玉を注文したことが分かると、少し憂鬱な気分になった。パリニルは煙玉が好んで吸っていたが、タバコが苦手な僕はどうもタバコを吸っているみたいだったので、好きになれそうにも無かった。

青髭の店員はテーブルにそれを置き、前と同じように白い玉を瓶の中の入れた。瓶の中はあっという間に橙色の煙で充満し、青髭の店員は金属のストローを手馴れたように突き刺すと、ストローからは少しずつ煙が漏れ出した。そして、青髭の店員は「どうぞ。」と言って持ち場に戻っていった。

僕は煙玉を吸う気になれなかったので、そのまま放っておいた。

「吸わないなんて、勿体無いじゃないか。」

後ろから何者かが僕に話しかけてきた。僕は後ろを振り返るとそこには、こちらの世界には似つかわしくない黒で統一された服装の男が僕の方を見ていた。黒のシルクハットと黒の長いコートが不気味な雰囲気を醸し出していた。

「どうも。」その男は軽くシルクハットを持ち上げ、僕に軽く会釈した。

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2007年9月20日 (木)

turn back (9)

「シロー。その問いに俺は答えることができない。それはお前はあまりにも特殊すぎるからだ。安易に言葉で説明できるものではないんだ。ただ、お前はすぐに生まれ変わることはない。生きながら死んでいて、死にながら生きている。それは分かるな?」

「はい。なんとなくですが、分かります。死んでいるのにこんなに意識があるとは思いませんでした。」

「そう。普通の人間は死んでしまうと、あっという間に生まれ変わってしまう。意識があってもほんの数分だろう。しかし、お前はまだ意識を持っている。死にながらも自由なんだ。」

マダラは話す言葉は乱暴だが、どこか真実味を帯びていた。彼は真剣に話し過ぎたのか、額からはおびただしい汗がにじみ出ていた。あまりにも汗を流していたので、絵から飛び出してくるかのようだった。彼は少し疲れた顔してこう言った。

「少し喋りすぎたようだ。少し休ましてくれ。」

彼はそう言うと、絵から姿を消してしまった。彼の居ない絵はどこか寂しげな風景画だけになっていた。

僕は静かにソファーに座り、マダラの言った“死にながら自由”という言葉を何度も僕は反芻した。僕が生きている時は意識があっただろう。しかし、それは果たして“自由”だったのだろうか。そこに“自由”はあったのだろうか。

僕の家は裕福でないにしても、貧しくはなかった。生きていた中で食べるものにも困ったことも無かったし、欲しいものは親が買い与えてくれた。僕が望めば、なんでもできただろう。しかし、そこには“自由”は無かったと思う。なぜなら、僕の心は常に満たされていなかった。ただ、そんな気がする。

僕は長い間“自由”について考えたが、そこに結論はなかった。考えれば考えるほど僕は混乱した。なので、僕はパリニルはなかなか帰ってくる気配がないので、気晴らしに散歩でもしようと外に出た。

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2007年9月19日 (水)

turn back (8)

僕はかなりの時間寝ていたのだろう。しかし、パリニルは家にまだ帰ってなく、外の景色も何も変わっていなかった。こちらの世界は昼も夜もないのだろうか。それとも、僕があまり寝ていなかったのだろうか。何がなんだかわかなくなってきてしまったので、僕はこちらの世界の事はあまり考えない事が一番だと思った。

パリニルを待っている間、あまりにも暇だったので、何か暇つぶしが出来そうなものがないかと家の中を探してみた。パリニルの家はソファーやベッドやテーブルが整然と並べてあるのだが、本やテレビなどの暇つぶしの出来そうなものが一切無かった。僕は暇つぶしが出来ないのがわかると、溜め息をつきながらソファーに戻った。

「溜め息なんかして、どうしたんだい?」

どこからともなく声が聞こえ、家の中を見渡すと変わった様子もなく、人影もなかった。

「おいおい。俺が声をかけてやってんだ。返事ぐらいしろよ。」

「誰?」僕は辺りを見渡しながら言った。

「誰だって?お前の目の前にいるじゃないか。」

喋ってきたのはなんと、壁に掛けられていた人物画だった。彼は髭を生やし、少し肥えた中年のおじさんだった。

「パリニルの野郎め!俺を紹介もせず出て行きやがって!お前もすぐに寝ちまうし!ところでなんて名前だ。」

「シローです。」

「シローか。良い名前だ。なんと言っても頭が良さそうだ。俺とは違ってね。俺はマダラだ。よろしくな。」

そう言いながら、手をこちらに差し伸べたが絵から手が出てくることはなかった。恥ずかしそうにマダラはまるで手に付いたほこりを振り払うように、手をはたいた。

「シロー。お前は人間だよな?」マダラは鼻をひくひくさせながら尋ねた。

「ええ、そうです。匂いでわかるのですか?」

「まあな。俺は絵の中に居るけれども、鼻だけは良いんだ。実はお前がこの世界に来たのに気づいたのはこの俺なんだ。それを俺がパリニルの野郎に伝えたのさ。あいつは人当たりも良さそうだし、なんといっても一番人間っぽいからな。」

「人間がこの世界に来るのは珍しいことなんですか?」

「そういうわけではないんだ。お前のような人間が来るのが珍しいんだ。生きている期間から抜け出して死んでしまうなんてよ。お前ぐらいだぜ。病気にせよ、事故にせよ、自殺にせよ、他殺にせよ、みんな死ぬ時期に死ぬんだ。お前が死ぬ時期なんて、うんと先だ。その話は聞いたよな?」

「ええ、聞きました。死ぬ時期とはみんな決まっているんですか?決まっているのなら、なんで僕は決められた時期に死なずにこの世界にやってきてしまったのですか?」

「それは難しい質問だ。」マダラは考えるかのように少し沈黙し、再び喋りだした。

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2007年9月14日 (金)

turn back (7)

パリニルは仕事があるからと言い、僕はパリニルの家に案内された。

パリニルの家は街からはかなり近く、形は丸い形をしていた。

この「街」という世界は丸いもので構成されているような気がした。

パリニルの家の中は隅々まで整理整頓されており、清潔感溢れる感じだった。

「好きにくつろいでいて下さい。外に出かけてもいいですし。」

「ありがとう。好きにさせてもらうよ。」

パリニルはニコリと微笑むと外に出て行った。

僕は近くにあったソファーに寝転がり、外から聴こえてくる音楽に耳を傾けていた。

こちらの音楽は一風変わっていた。

その音楽はどこかで聴いたことのあるようなとても優しい音で構成されており、聴いているととても心地が良かった。

その心地の良い音楽をずっと聴いていると、軽やかに眠気が舞い込んできた。

僕はその眠気に逆らうこともなく、深い眠りに入った。

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2007年9月13日 (木)

turn back (6)

パリニルは空中に息を吹きかけると、そこに一つのドアが現れた。

ドアを開くとそこには初めて目の当たりする光景が広がっていた。

様々な大きさの球体が重なり合ったビルディングのような建物が整然と並べられていて、あちらこちらで楽器の音がなっている。

しかし、楽器の形は見たことが無いものが多く、それがどのような音を出すかは全然解らなかった。

「あそこで休みませんか。」

パリニルはカフェのような店を指差すと僕の顔を窺った。

「いいよ。綺麗な店だね。」

僕はそう答えるとパリニルはニコリと微笑み、僕をその店に案内してくれた。

店に着くと青い髭のした店員らしき人が僕たちを席へと案内してくれた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「煙玉を二つ。」

「かしこまりました。香りの方はいかがなさいますか?」

「蜜と伽羅を」

「かしこまりました。」

青髭の店員はそう言うと、水らしき物が入った、丸い形のガラス瓶を二つ持ってきた。

青髭の店員はそれをテーブルに置くと、白い玉をそれぞれに一つずつガラス瓶に入れた。

すると、片方のガラス瓶の液体は黄金色に変わり、液体からモクモクと煙が出始めた。

もう片方の液体は藍色に変わり、これも同じようにモクモクと煙が出始めた。

瓶の中が煙で満たされるとパリニルは金属で作られたストローを瓶の蓋に突き刺した。

突き刺されたストローからは煙が漏れ始めた。

パリニルは黄色の瓶の方の煙を吸うよう僕に勧めた。

勇気を出して、その煙を吸ってみると目の前が黄色くなり、視界を奪い始めた。

次に甘美な香りが僕の意識を奪いにやって来た。

煙を吐き出すと視界も意識も元に戻りだしたが、煙を吐き終わっても頭がフラフラした。

パリニルは藍色の方も僕に勧めたのだが、僕はあまり好きになれなかったので断った。

何か食べ物は無いのかとパリニルに聞いたところ、こっちの世界には存在しないものだと言った。

食欲、性欲、そしてお金はこの世界に存在しないことを教えてもらった。

理由は必要がないかららしい。

彼らの娯楽は何があるのかを聞いてみると、この煙玉と音楽だけだと言っていた。

なので僕がこっちの世界にいる時の娯楽は音楽ただ一つになってしまった。

パリニルにこの世界と下界とでは時間の進み方が違うのではないかと聞いてみたら、パリニルは目を大きく開き僕を見た。

「シロー。あなたはなんて賢いのでしょうか。この世界に人間長い時間居る事はとても珍しいのですが、その中でもシローは抜群です。時間の話はシローのおっしゃる通りです。大雑把ではありますが、下界の一秒は大体こちらの世界では一年ぐらいの時間だとされています。下界では一秒間に沢山の人がこちらの世界にやってきます。なので、全ての人間を生まれ変わる様にするにはとても時間がかかるため、時間がずらしてあるようです。私がその事に気づいたのはつい最近の事ではありますが・・・。」

「僕みたいな人は何故珍しいの?死んだらここに来るんでしょう?」

「ええ。大体の人間は決められた期間に生き、そして死んでいきます。なので生まれ変わりを用意するのは容易なのです。しかし、シローのような死に方をする人は非常に珍しいので、生きている予定の期間が違って来るのです。なので生まれ変わりをすぐに用意することが出来なかったのです。」

「なるほどつまり僕は生まれ変わりが用意できるまで、かなりの時間を待たないとダメなんだね。」

「ええ。おそらくその通りです。」

パリニルはそう言うと青い方の煙玉を吸い始めた。

パリニルはとても楽しそうに煙を吸っていたのだが、僕があれを吸う事はもう無いだろう。

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2007年9月12日 (水)

turn back (5)

僕は走り続けていたら、街の風景が段々と消えてしまい、気づけばあの白い空間を走っていた。

「・・・あれ?」

いまいち状況が読み取れず、周りを見渡すとパリニルがこちらに走ってきていた。

「シロー。何故走るのですか。」

ぜえぜえと声を切らしながら、パリニルが走ってきた事が面白く、僕はつい笑ってしまった。

「パリニルも走るんだね。」

「ええ。走りますとも。これでも、昔は早かったんですから。」

パリニルは不思議な人だ。

かなり年を取っているはずなのだが、少年の顔をしていて、当たり前かもしれないが人間っぽくない。

そして純粋で、優しい。

彼と一緒に居れば、何もかもを打ち明けてしまいそうになる。

パリニルは荒れていた息を静めるとこう言った。

「私たちの街に行きましょう。」

「街?」

「ええ。街です。私たちもつまらないこの空間は苦手なので・・・。」

そう言うとパリニルは苦笑いをし、歩き出した。

僕は彼らの街が見たかったし、パリニルと話がしたかったので、彼の後をついて行く事にした。

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2007年9月11日 (火)

turn back (4)

僕は玄関のドアを開けようとドアノブにかけようとすると、ドアに触れることなく、そのまま通り抜けてしまった。

「そういうことね・・・。」

僕は軽く苦笑いをして、家の様子を見渡してみると僕が生きていた時となんら変化はなかった。

とりあえず僕の部屋に行ってみようと二階に上がってみると、何か声が聞こえてきた。

その声は僕の部屋の前まで歩いてみたら、それは母親のものだとすぐにわかった。

僕の部屋に入ってみると、薄暗い中で母さんが僕を抱きしめながら泣いていた。

母親は最近増えだした皺がまた増えたのかと思うほど顔をクシャクシャにし、その皺に川でも流れているかのように大量の涙を流していた。

そんな母親の姿を見て、僕は死んだ事に後悔していた。

母親と倒れてる自分を見つめながら、僕はしばらく立ちすくんでいた。

すると、遠くの方で救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

サイレンの音が段々と近づいている事に母親は気づくと立ち上がり、位置を知らせるために外に出て行った。

ここで僕はある異変に気づいた。それは僕が死んでからあまり時間が経っていないことだ。

死んだ世界とこっちの世界では時間の流れ方が全然違うようだ。

しばらくするとサイレンの音が止み、救急隊員が母親と共に僕の部屋にやって来た。

彼らは僕の心臓が動いているかどうかを確かめた後に蘇生法を始めだした。

僕は助かるのは無理だろうと思い・・・いや、分かりながらその行く末を眺めていた。

救急隊員は心臓マッサージを続けていたが、段々と焦りの色が見え出した。

悲しいからもう止めて欲しいと思っていたら、彼らはあきらめたのか手を止めて、僕の母親に深く礼をした後で帰って行った。

しばらく、泣き止んでいた母親は再び泣き出した。

僕は居た堪れない気持ちになり、外へと飛び出した。

外に出るとパリニルは悲しそうな表情をして僕を見ていた。

僕はパリニルの前を走り抜け、行く当てもなく走り続けた。

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2007年9月10日 (月)

turn back (3)

穴の中に飛び込んでみると宇宙のような景色が広がっていた。

落ちてはいるけど、何かおかしい・・・。変だ・・・。

「あっ!」

僕は思わず叫んでしまった。

地球のはるか上空から僕は落ちていた。

真っ白い雲を突き抜けて、僕は地面の近くまで落ちていた。

・・・やばい!

僕は目を思いっきり閉じた瞬間に僕の身体は地面に激しく叩きつけられ、何メートルか跳ね上がった。

そのまま僕はうつ伏せになったまま倒れていた。

・・・痛くない。

なるほど僕は死んでいたのだった。

死んでしまった僕が死んでしまう事に恐怖したことに少し可笑しくなった。

起き上がると目の前にパリニルが立っていた。

「驚きましたか。」

笑いながらパリニルは僕に尋ねてきた。

「うん。いつもこんな感じなのですか。」

「いいえ。あなたは私より先に行ってしまうのですもの・・・。本当はゆっくり落ちていくので・・・。」

「死ななくて良かったよ。」

パリニルは腹を抱えて一通り笑った後に僕にこう言った。

「シロー。あなたはやっぱり頭が良い人です。」

「ありがとう。でも、笑いすぎだよ。」

そう言うとパリニルはまた笑い出した。

僕が落ちたところは僕が住んでいる家の近くだった。

いや、住んでいた家の近くだ。

あまりにも死んだ感覚がないので、思わずそう思ってしまった。

「そういや・・・。」

僕の家のほうへ歩いていたら、パリニルはいきなり真面目な顔をしながら口を開いた。

「私たちがこちらに来た時はルールに従わなければいけません。それは少しも難しいことではありません。生きている人とは会話をしてはいけないということです。」

「死んだ人は生きてる人と会話ができるのですか。」

「普通の状態では私たちの声は聞こえません。しかし、とても近い距離で話してしまうと聞こえてしまうようです。特に伝えたい気持ちが強ければ強いほど・・・。私はその経験はありませんが・・・。」

「それなら、大丈夫だよ。ルールを破ると何が起こるの。」

「生まれ変わることが困難になり、死んだ身体のままでこの下界にずっといることになるでしょう。」

僕たちは気がつくと、僕の家の前まで来ていた。

「私はここで待っています。」

パリニルはそう言いながら立ち止まった。

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2007年9月 9日 (日)

turn back (2)

「ここはどこですか。」

白い服を着た男は私の顔をじっと見た後で僕の問いに答えた。

「新しく命がもらえるまでの待合場のようなものです。まぁ我々は“涅槃”と呼んではいますが・・・」

「僕は死んでしまったのですね。」

「そうです。この場所を訪れた人は必ず私にそう質問します。特にあなたのような若い人はね。」

白い服の男は自分の近くに来るように手招きをし、歩き出しました。

僕は少し慌てて駆け寄り、彼の隣を歩くようにしました。

「申し遅れました。私の名前はパリニル・ヴァーナと申します。」

「僕の・・・。」

僕が名前を名乗ろうとするとパリニルは手で喋らない様に合図した。

「下界の名前はすぐに変わってします。その名前を名乗る必要はもうありません。」

何か寂しい気持ちが心の中に風のように入り込んできた。

僕の存在価値が無くなってしまったかのようだったので、僕は何でも良いから名前で呼んで欲しいと思い、パリニルに何か名前を付けるように頼んでみた。

すると、パリニルは少し上を見上げたかと思うと、人差し指で顎を軽く何回も叩いた後でこう言った。

「シローとはどうでしょう。私たちの言葉で“頭”と云う意味なのですが・・・。あなたはとても頭が良さそうなので・・・。」

「ありがとう。」

僕がそう言うと、パリニルはニコッと笑いながら「どういたしまして。」と言った。

僕はしばらく下界を散策することになった。

パリニルが言う事には僕の死ぬ時間が予定よりもかなり早かったようだ。

僕はいつ生まれ変わる事が出来るかをパリニルに聞いてみたのだが、彼は苦笑いをするだけで答えようとしなかった。

こっちの世界も色々と難しいことも多いようだ。

だから、その事について深く質問することはやめようと思った。

パリニルは急に立ち止まり、地面に円を描き出した。

円を描き出したと同時に円の形のした黒い穴が現れた。

地面に穴が開いたと云うよりも空間に穴が開いたようだった。

「ここから下界に行くことが出来ます。飛び込んでみてください。」

僕は飛び込もうとしようとした時にパリニルは思い出したかのように言いました。

「それと・・・。こちらの人間には下界に行くと幾らかのルールがあります。それは下界に着きましたら、追々説明していきますので。」

僕はその話を聞いた後、すぐにその穴に飛び込んだ。

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2007年9月 8日 (土)

turn back (1)

「僕は本当に死ぬつもりだったのか・・・。」

僕は死んでしまった自分の身体を見つめながら呟いた。

母親が僕の身体にしがみつきながら泣いている。

悲愴感で満たされた部屋の中には美しく吊り下げられたロープが楕円の形を描いていた。

母親はそのロープを憎むような表情で見つめている。

僕は悪い事をしてしまったのだろうか。

僕は死ぬつもりだった。

しかし、死にたいはずの僕は死ぬ事を恐れていた。

少し古ぼけた木の椅子の上に立ち、楕円の形をしたロープの中へ頸を通してみるが、死の恐怖が僕を襲い、何度もやり直した。

僕は部屋の壁にもたれかかり、何度も楕円の形をしたロープを見つめていた。

それはゴッホやピカソたちの描いた絵をまるで鑑賞するかのように。

死にたいと思う気持ちは、いつの間にか僕の中で憧れへと変わっていった。

僕は立ち上がり、もう一度ロープに頸を通してみた。

いや、頸を通したかどうかと云う瞬間に僕の部屋の扉が開いた。

僕は驚き、足を滑らせ、そのまま首を吊ってしまった。

生きている時の記憶では入ってきたのは母親だったかと思う。

僕の首の骨は自分の体重に耐え切れず折れてしまっていたので、すぐに意識が無くなってしまったようだ。

なので、部屋に入ってきたのは母親だった、と思う。

僕が絶命したかしていないかの時、僕は白い色で統一された空間でうつ伏せになり、倒れていた。

あまりにも意識がはっきりとしていたので、死んでしまったのか、死んでいなかったのか、夢なのかがわからなかった。

僕は立ち上がり、ロープに締め付けられたはずの首を触ってみたが、異常だと思うことは何も無かった。

異常なのは白い色で統一されたこの空間だ。

温度があるのか、果たして無いのかもさえわからない。

この空間は「白」というよりも、「無」であった。

無限に続く白い空間を散策することにした。

地面も空を白く包まれているので、歩いていても「歩く」と云う感覚はまるで無かった。

進んでいるかどうかが解らない空間で、僕は歩き続けた。

すると、近くに扉のような存在を見つけた。

扉はただ一枚あるだけで、周りには何も無かった。

恐る恐るその扉を開けてみると、そこにはまた違う空間が広がっていた。

その空間は色とりどりな花々に囲まれた空間だった。

そこに白い服を着た、丸坊主の男が立っていた。

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